尊敬に値しない無能な「上司」に悩まない対話術【福田和也】
福田和也の対話術
真面目に考えるとドウシヨウモない、何の取り柄もない、さらに、仕事も出来ないからまったく尊敬に値しない「上司」が、あなたの周りにもいませんか? そんな上司に対して、あなたはどれほどつらい思いで接していることでしょう!どれだけ気が滅入るような思いで対話をしていることしょう!しかし、そのときに武器になるのが、「敬語」なのです。このほど初選集『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』(KKベストセラーズ)を上梓した福田和也氏が、この「敬語」の本質と効用について語ります。もうあなたを悩ませない!困らせない!
敬語について
■正しいと受け取られる日本語
敬語というのは、なかなか難しいものです。
と云うと、言葉遣いというか、文法にうるさい親父の云い草のようですが、ここでは、あまり「正しい日本語」については考えません。無論私は思想的に多少(人の目から見るとかなりかもしれませんが)ライトよりなので、「正しい日本語」といった話柄(わへい)にかなりの興味があるのですが、そうした麗しい話は、ここでするにはふさわしくないでしょう。
ここはより実践的な、現実的な、言葉の意識、つまりは言葉を剣や盾として使い、生き抜いていく人のための場所です。ですから必要なのは、「正しい日本語」ではなく、「正しいと受け取られる日本語」なのです。あるいは、こうも云えるでしょう。「美しい日本語」ではなく、「美しく聞こえる日本語」であり、「解りやすい日本語」ではなく「解ったと相手が思い込む日本語」なのです。
残念ながら、大人の世界では、すべては相互的であり、他者の存在を無視しては何も進みません。たしかなものは、ただ自分を欺(あざむ)くことなく旺盛に、かつエレガントに、生きていこうという自分の意志だけなのです。
さて、敬語についてです。
敬語が難しい、というのは、尊敬語と謙譲語の使い分けが難しい、というようなことではありません。
いや、もちろんある程度は難しいし、大人たるものきちんと使いこなせないといけないのですが、しかし誤解していただきたくないのは、その難しさを文法的な水準で考えてはならない、ということです。つまり、文法として正しい敬語などを話すことは意味がないのです。そんなことは、日本語学校の教師か、NHKラジオ第一放送のベテランアナウンサーにでもまかせておけばよろしい(彼らも、このごろは大分アヤシイということですが……)。私たちにとって、敬語が敬語としての実をあげる、機能を果たせばいいのです。
では、敬語の機能とは何か。
云うまでもなく、話し相手、もしくは話題になっている相手にたいする敬意を表現することです。
では、敬意とは何でしょうか。
ここまで読んでいらっしゃった方は、敬意というものが、相手への尊重の気持ち、尊敬の思い、などという単純なものではないのではないか、というぐらいの意識はおもちだと思います。
敬語を使う相手、使わざるを得ない相手にたいする、自分の敬意のあり方を、よく見つめて下さい。そうして見ると、本質的な尊敬の心などは、カケラもない、ということが明らかになるのではないでしょうか。
などと書くと、また人のことをヒトデナシのように書いて、と思われるかもしれません。だったら、こう云い直してもいいです。敬語の使用と、尊敬する思いとは、ほとんど関係がない、と。
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